前世恋人だった副社長が、甘すぎる
なんというパワハラだ。
そしていかなる理由があろうと、怜士さんの代わりに皆さんに頭を下げたい気分になる。
そして、『クリスチーヌとマルクの物語』についてどのような話をしていたのかとても気になるが、それは聞かないことにしておいた。
ここまで怜士さんの悪行を聞いておいて、「だけどいい人です」なんて言えるはずもなく、
「大変だったんですね」
無難な返事を返してしまった。
女性社員は心底私を心配している顔で言う。
「だから、今はなぜか副社長の機嫌がいいですが、菊川さんが心配です。
副社長の気が変わったら、菊川さんもきっと精神を病んでしまう……」
怜士さんがそこまで嫌われているのに胸を痛めるとともに、嫌われても仕方ないと思わずにはいられない。
だけど生憎、私は怜士さんにやられるつもりはないし……
何となく分かっている。怜士さんは、ずっと私にだけ特別扱いをすることを。
マルクはこんな悪人ではなかった、なんて怜士さんに言ってやりたいが、言う勇気はない。
だって、その事実を告げると、怜士さんとの関係が変わってしまいそうだから。
……いよいよ私をクリスチーヌとして扱い始めそうだから。