凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
(それは俺には関係ないこと。心配してどうする)
そしてまた心配などと思ってしまった自分にハッとさせられ、今度は信じられないというように目をわずかに見開く。
表情はあまり変化が見られなくても、心は大きくざわつかせたまま、ちょうど昔、ルーリアと出会った庭園の横に差し掛かったところで、カルロスの目の前に飛び出すように男が現れた。
「誰だ」
即座に馬を制し、右手を剣の柄に添えながら、カルロスは鋭く問いかける。
薄暗闇の中に紛れ込むかのように灰色の外套を纏った男が、目深に被っていたフードをゆっくりと取り去り、顔をあらわにさせた。
「貴方は確か……」
目の前の男アズター・バスカイルに、剣の柄に触れていたカルロスの手が警戒を解くべきかどうか迷うようにぴくりと動く。
「突然すまない。でもここにいれば必ず会えると思って君を待っていた」
アズターの言う通り、騎士団の詰め所から屋敷に帰るには、庭園横のこの道を通るのが一番の近道となる。
「俺になんの用ですか?」
「頼みたいことがあって来た。どうか話を聞いてほしい」
いつ帰るか分からない自分を待ち続けてまで頼みたいことなど見当もつかず警戒心が募り出す。しかし、切実にも感じられるアズターの様子に、ルーリアの姿を思い出してしまえば、無下に断るのも少しばかり心苦しくなる。