凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

「話くらいなら」

 小さく頷き、ぽつりと返事をすると、アズターが心なしかホッとした表情を浮かべた。しかし、庭園の方から女性ふたりが話しながらやって来るのに気づくと、アズターはすぐにフードを被る。姿を見られたくないのだと察するとカルロスは馬を降りて、ぽつりと声をかけた。

「俺の家で聞きましょう」
「すまない。感謝する」

 手綱を引いて歩き出したカルロスに続くように、アズターは周りを気にしながら歩き出した。


 + + +


 アズターがカルロスの元を訪ねたその五日後の晩、満月の月明かりが差し込む小屋の中、ルーリアは疲れを滲ませた表情を浮かべながら、ベッドの上で膝を抱えていた。
 真夜中までかかってしまったが、先ほど今日の分の魔法薬を作り終えた。そのため、もう寝てしまって良いのだが、黒精霊が迫ってくる夢を見るのが怖くてこうして蹲っているのだ。

 そして、眠りたくても眠れない理由はあとふたつあり、ひとつ目の理由であるひりひりと痛む口角を、ルーリアはそっと指先で押さえた。
 一昨日の昼間、突然やって来たアメリアに思い切り頬を叩かれたのだ。その反動で床に倒れたルーリアは叩かれた理由がわからないまま、怒りの形相のアメリアを呆然と見上げていると、慌てて小屋に入ってきたクロエラがアメリアを宥め、侍女とふたりがかりでなんとか外へ連れ出そうとする。
 その間もアメリアの怒りに満ちた眼差しはずっとルーリアに向けられていて、「どうして私じゃなくて、あんたなのよ!」と金切り声で叫び続けていた。
 小屋から出ていく直前、クロエラが「誰から結婚の申し込みが来たとしても、この子は嫁には出さないわ。それはアメリアだってわかっているでしょ?」と話して聞かせた言葉で、ルーリアはまた自分に縁談の話があったのだろうとぼんやり理解したのだった。

 そしてもうひとつの眠れぬ理由は、ここ最近頻繁に思い出してしまう子どもの頃の記憶にある。
 それは今から十年前、カルロスと出会ったあの日の出来事だ。
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