凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
三章、 新しい生活

 庭園から真っ直ぐに続く道を馬を引いたまま歩いていくと、バスカイル家と同じく高い壁に囲まれた大きな二階建ての屋敷の前にたどり着く。

「ここが俺の屋敷。今日からルーリアの家でもある。両親はとうに死んでいて、妹は嫁に出ている。今屋敷にいるのは、俺と同居人がふたり」

 説明しながらカルロスは門を押し開けて、ルーリアへ中に入るようにと眼差しで促す。
 開けてもらっている門を、ルーリアは恐る恐るくぐり抜けた。高い壁があるため外からは分からなかったが、庭には花壇がたくさんあり色とりどりの花が咲き乱れ、その先には小さいけれど東屋もあった。

「とても綺麗。良い匂い」

 庭に満ちている花の香りをルーリアが胸いっぱい吸い込んだ時、花壇のあたりから小さな姿が慌てた様子で飛び出してきた。

「カルロス坊ちゃん。こんな夜更けに、しかも騎士団の制服も着ずに出て行くから珍しいなと思っていたら……まさか若い女性を連れ帰ってくるなんて」

 カルロスを坊ちゃん呼びするのは年老いた見た目の男の精霊だった。
 ルーリアは黒精霊から祝福を受けていることもあり、これまでたびたび黒精霊は目にしてきたが、一般的な精霊の姿を見かけたのは二回しかない。
 そもそも精霊自体が滅多にお目にかかれる存在ではない。話しかけられただけでも驚きだというのに、手にはスコップとじょうろを持ち、服はところどころ土で汚れていて、庭仕事をしていたとわかる生活感溢れる姿を見せられ、ルーリアは唖然とする。
 そんな希少な精霊に対し、「ああ忘れていた、もう一体いた」とカルロスはぼやいた。

「彼はセレット。見ての通り精霊。この屋敷に勝手に住んでる」

 すぐさま丁寧に頭を下げてきたルーリアに対し、セレットは眩しいものを見るような顔付きになる。


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