愛しているから、結婚はお断りします~エリート御曹司は薄幸令嬢への一途愛を諦めない~【試し読み】
 そう答えたものの、相談できる親類なんていない。頼れるのは自分だけだ。決断は私がしなくてはいけない。

 椅子から立ち上がり、頭を下げて診察室を後にする。

 施設か……。

 正直母をひとりにしておくのは心配だ。施設に空きがあるのなら入れたい。でも日々の病院や医療費だけでも負担が重いのにどこにそんなお金があるのだろうか。

 母の様子を見るために、病室に向かう。

 夕食の時間が始まったのか、外来と比べ病棟は慌ただしい雰囲気だ。邪魔にならないように廊下の端を静かに歩き、母の病室のドアをノックした。中から返事があったので目覚めているようだ。

「調子はどう? お母さん」

 病室に入り白いカーテンをゆっくり開けると、母が視線をこちらに向け力なく微笑んだ。

「ごめんね、こんなことになって」

「謝らないでよ」

 私がベッドサイドにあるパイプ椅子に座ると、母はか細い声で私に話しかけた。

「アルバイト、お休みしたの?」

「ううん。今日はもともと休みだから大丈夫」

 自分を責めている母に、これ以上心労をかけたくなく私は嘘をつく。

「いつまでもつかしら、この体」

 倒れてショックを受けたのか、母はいつにもなく気弱になって涙を流している。

「お父さんがいれば……あなたにこんな苦労をかけずに済んだのに」

 はらはらと流れる涙を拭う気力すらないようだ。痛ましげな様子に胸が痛い。バッグからハンカチを取り出して母の頬を拭く。

「謝らないで。そんな弱気になっていたら、お父さんに怒られちゃうよ」

「そうね。もう少し頑張らないとね」

 母は気を取り直して、私の手からハンカチを受け取り自分で涙をふいた。

「もう遅いわ。明日も仕事でしょう? 帰りなさい」

「もう少しだけ、いさせてよ」

 明日の検査には付き合えない。せめて面会時間が終わるまでは一緒にいたい。

「いいから、帰りなさい。ね?」
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