私に婚約破棄しようとしてきた王子が、階段から落ちて意識不明になりました

3 私にしか見えないフェリクス

 誰もがフェリクスの存在を無視している。フェリクス自身も同じように感じたらしい。
 普段よりも大きな声で彼が叫んだ。


「俺はここにいる! これは一体どういうことなんだ!?」


 しかし、その質問に誰も答えないどころか誰も見向きもしていない。
 うっすらと感じていた疑問が確信に変わる。



 みんな、このフェリクスが見えていないんだわ!?
 ……どうして!?


 
 私にだけ見えている。
 私にだけ聞こえている。
 ……なぜ?

 呆然と立ち尽くすフェリクスと、目が合う。
 彼も私と同じことを考えているのだとすぐにわかった。

 自分のことが見えているのは、私だけだと──。
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