愛のない一夜からはじまる御曹司の切愛

ヒーロー Side


 部屋の中に入っていた咲良に伸ばしていた手をひっこめる。パタンと小さな音を立てて閉まった扉に俺は小さく息を吐いた。

「おやすみ」
 呟くぐらいの声でそう言うと、踵を返して隣の部屋へと向かう。

 初めてといっていいほど、こんなに一緒の時間を過ごすことができた。
 遠くから元樹といる彼女を見つめていただけの俺。それでも彼女のことを少しは知っていると思っていた。
 しかし、一緒に過ごしてみて分かったこと。
 それはさらに咲良は素敵な女性ということだ。母としての優しさはもちろん。テンポの良い会話に、彼女の持つ雰囲気は、俺の心を穏やかにしてくれる。
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