愛のない一夜からはじまる御曹司の切愛

番外編 家族が増える日



「行ってくるな」
「いってらっしゃい」
 
 日課になりつつ、私の頬にキスをしつつ、足元へと視線を向ける。
 少し前までは挨拶のキスがちょっと長すぎて、困っていた時期もあるのだが……。

 「弥生」
 優しくそう声をかけてた恭弥さんと私に聞こえたのは、「イヤー!」という断末魔にも近い声だ。

 ため息をつきたい気持ちを抑えつつ、私も弥生の名前を呼ぶ。

「ダメなの! いやー」
 そういったと思うと、弥生は大声で泣き始めた。
 そして、涙にぬれそうになる恭弥さんのスーツ。

 そう、玄関で靴を履いて仕事に出かける寸前の彼の足にしがみついているのは、まぎれもなく私たちの愛娘だ。


 今日も弥生は絶賛パパの仕事を妨害中だ。
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