100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
パイロットになるのを夢見て進学し、卒業間近の二十三歳の時に交通事故で亡くなった。制御不能の暴走車が歩道に突っ込んできて、目の前を歩いていた小学生を咄嗟に突き飛ばして助け、自分は犠牲になったという。
(そんなに悲しい過去があったんだ……)
これまで和葉の実家については何度か話題に上がったが、彼の家族については話してくれなかった。
口にするのがつらく言えなかったのだろうかと心配し、眉尻を下げて彼を見つめた。
すると頭に大きな手がのせられ、悲しみは乗り越えていると言いたげに微笑んでくれる。
「見ず知らずの子供の命を救った兄を誇りに思う。俺に対しても優しい自慢の兄だった。亡くなったあと、母の病状が悪化して、それが一番心配だった」
五十嵐の母は長年心臓病を患っており、定期的な通院と服薬治療を続けながら兄弟を育ててくれた。
フルタイムで仕事もこなし、一見すると元気そうだったのに、息子を亡くしたショックで倒れてしまったそうだ。
当時、五十嵐は十六歳で、兄に続いて母まで失うのかと恐怖したという。
入院中の母の枕元につき添っていた時、弱々しい声でこう言われた。
『世界中の空を飛びたいという翔の夢は叶わなかったね。航空会社への就職も決まっていたのに。翔の夢を応援しているうちに、いつの間にかお母さんの夢にもなっていた。パイロットになった姿を見たかった……』
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