100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
「えっ、そこは否定してくださいよ」
「このフライトも、同じくらい楽しめるといいが……」
ライトエンジンの筐体を撫でて月を見上げると、和葉に両手で強く手を握られた。
「ホノルル周辺も天候がいいそうです。きっと素敵なフライトになります」
真っすぐに強気な目を向けられると、根拠がなくても信じたくなる。
「そうだな。ありがとう。ところで――」
「どうかしました?」
「俺の手を握って放さないこの状況は、誰かに見られても平気なのか?」
「あ、しまった! つい……」
慌てて手を離した和葉が愛しい。
「行ってくる」
「いってらっしゃい。まだ寒いので、帰ってきたらまたお鍋をしましょう」
「いいな。楽しみだ」
背を向けて片手を上げ、ターミナルの方へ引き返す。
帰りを待ってくれる人がいると思うと、鍋を食べる前から心が温まった。

定刻通りに離陸したホノルル便は、既定の航路に入ってから自動操縦に切り替え、安定した飛行を続けている。
ホノルル空港までは七時間弱かかり、到着は現地時間の八時十分を予定している。
六時半を回った太平洋上空はまだ真っ暗で、照明を抑えたキャビンでは乗客たちが眠っていることだろう。
この日もペアを組むのは御子柴で、チラッと隣を見ると静かに黒い窓の外を見つめていた。
いつも煩わしいほど話しかけてくる上司が、このフライトでは最初からやけに寡黙だ。
少々心配になり、慧の方から声をかけた。
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