100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
その穴が広がってしまえばパイロットを続けられなかった可能性もあるが、そうなる前に塞いでくれたのは和葉だった。
『慧さんはパイロットに向いていると私も思います。お兄さんの夢を継いでパイロットになったんだとしても、実際にジャンボジェットを飛ばしているのは慧さんです。フライトバッグにお兄さんの写真を入れていても、コックピットから空を見ているのは慧さんなんです。真摯にパイロットとして生きてきた人生を、『兄の代わりに飛んでいるだけだ』なんて言わないでください』
必死な目をした彼女の説得に胸打たれた。
『これからは兄の代わりではなく、自分の希望で空を飛ぼうと思う』
気づけばそう口にしていて、この区切りを前向きに捉えることができたのだ。
あの日以降、兄の写真をフライトバッグに入れていない。
「へぇ、実家に連れていったのか。結婚秒読みだな。のろけ話、聞かせてみろよ」
ニヤニヤしている御子柴に真顔を向ける。
「兄の話でもいいですか?」
これまで亡き兄ついて同期にも教えたことがなかったが、和葉と同じように本気で心配してくれていた御子柴には話してもいい気がした。
「兄? 急に色気がないな。まぁいい。退屈だしのぎに聞いてやる」
「ありがとうございます。ふたり兄弟で、七つ年上の兄は若くして亡くなっています。コックピットクルーを目指していたのですが――」
真っ暗だった海に淡い光が見える。
日の出が近いのだ。
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