100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
キャスターつきの黒いフライトバッグだ。
その中には各種ライセンスやヘッドセット、グローブ、サングラス、タブレット端末などのパイロットの必需品が入っている。
フライトバッグの傍らにしゃがんだ和葉は、ファスナーの引手にキーホルダーを取りつけた。
「おい」
真後ろに低い声がする。
「いい感じにつきました。開け閉めしやすいですし、自分のバッグだとひと目でわかります。使ってください」
「そこまでして使わせたいのか?」
振り向いてその顔を仰ぎ見ると、眉を寄せて嘆息された。
(迷惑そう。やめた方がいいみたい……)
「押しつけてすみませんでした。喜んでもらえるようなプレゼントを考え直しますので、数日、待ってください」
眉尻を下げた和葉の横に、彼が片膝をついた。
「俺になにか贈りたいという気持ちはわかった。それなら金で買えないものがいい」
金欠の和葉を思いやってのリクエストのようだが、それにしてはなにか企んでいそうに口角が上がっている。
「肩もみ券とかですか?」
「色気がないな」
却下されると同時に、器用そうな長い指が和葉の顎にかかった。
きれいなダークブラウンの瞳が艶めき、薄く開いた唇は蠱惑的だ。
大人の色気をあふれさせる彼を初めて目にして激しく動揺する。
いくら恋愛にうとくても、なにが始まろうとしているのかわからないほどではない。
「あ、あの、そういうのはちょっと……」
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