イケメンカリスマ美容師の沼は思った以上に深そうです
「本当に帰っちゃっていいの?」
「もちろん」

 塚田くんはにっこりと陽気な笑みを浮かべたあと、駅の方向へ歩き出した。
 上半身だけ振り向いて、早く来いとばかりに手招きをされたので、あわてて小走りで彼を追う。

「この作戦でいい男見つかった?」

 隣を歩く塚田くんが前を向いたまま突然質問を投げかけてきた。
 私は意味が理解できなくて、彼の表情をうかがいながら考え込んでいると、いきなり右の手首を力強く掴まれた。
 
「作戦ってなに?……どうしたの?」

 尋ねたけれど返答がない。私の手を掴んだまま大通りから横道に逸れようとしたので、足に力を入れて踏ん張った。

「駅はそっちじゃないよ!」
「こんなこと、しょっちゅうやってるんだろ? 柄にもなく着飾ってるもんな」
「は?!」
「初めはウブなふりして嫌がって見せるのがマイルール? 花咲って意外とあざといんだな」

 気味の悪い笑みを向けられて、一気に肌がぞわぞわと粟立った。
 塚田くん越しに見える路地の奥に、いかがわしいホテルの看板が光っているのが見えたから。
 彼は私をあそこの部屋へ引っ張り込もうとしているのだ。

< 24 / 31 >

この作品をシェア

pagetop