イケメンカリスマ美容師の沼は思った以上に深そうです
「塚田くんがなにを言ってるのかひとつもわからないよ」
「はいはい、そういうめんどくさいやり取りは省略で。こんな場所でグズらないで部屋に行こう」

 淡々と言葉を発する塚田くんが今はまるで別人に見えてきて背筋が凍った。
 彼がこんなに軽薄な人だったなんて信じられない。

「あのさ、そんな軽蔑した目をされても困るよ。カラオケには行かない、帰る、って……さりげなく誘ってきたのはそっちだろ? 同窓会で男漁りして」
「さ、誘ってなんかないよ! 私、好きな人がいるってちゃんと言ったじゃない」

 どういう解釈をしたら“誘ってきた”になるのか、私は理解に苦しみながら必死で(かぶり)を振って抵抗する。
 ここでようやく私が本気で拒んでいると塚田くんはわかったみたいで、心底(わずら)わしそうに顔をしかめた。

「好きな人がいるってどうせウソなんだろ? 自分にも恋愛をする相手はいるんだって言いたかっただけ、みたいな」
「本当にいるもん。イケメンカリスマ美容師の快永さん!」
「マジか。そいつともうキスくらいはした? ま、俺は気にしないから大丈夫。それとこれとは別だもんな」

 話がまったくかみ合わない。
 お互いに激高しないで冷静に話しているのに、私の言葉は彼に通じていないみたいだ。
 もしかしたら塚田くんは私の言い分を無視して自分の思い通りにしようと、ハナから画策していたのかもしれない。
 そんな考えが脳裏をよぎった途端、手首を掴まれたままのこの状況がすごく怖くなって身体がぶるぶると震えた。

「美容師はモテるから遊ばれた挙句に捨てられるのがオチだぞ。俺とも楽しもう。割り切った関係って楽じゃん」

 塚田くんには心底がっかりした。こんなことなら同窓会で再会なんかしなければよかった。
 そうすれば、淡い恋心を抱いていた高校生のころの彼を思い出の中に閉じ込めたままにしておけたのに。

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