イケメンカリスマ美容師の沼は思った以上に深そうです
「絶対やだ! 手を放して!」

 このまま恐怖におののいて立ちすくんでいてはダメだ。
 早く逃げなければと思い、掴まれていた手を払おうとして力いっぱいブンブン振り回した。

「暴れるなって」

 根負けした塚田くんが手を放した瞬間、私の髪が乱れて髪飾りが地面に転がり落ちた。

「私は快永さんが好きなの。どうしようもなく好きで好きで……。塚田くんにはわからないよ!」

 美容院で快永さんがこれを付けてくれたとき、痛いくらい胸が高鳴って仕方なかった。
 あのときの顔……彼の仕草や、目が離せなくなるほどうっとりとしてしまう表情が自然と頭に浮かんでくる。
 どうしてこんな状況になったのか。どこか私自身に隙があったからつけ込まれたのかな。鼻の奥がツンとする。情けなくて泣きそうだ。

「杷子ちゃん!!」

 快永さんに会いたい。
 心からそう願ったからなのか、私の名を呼ぶ彼の声がかすかに聞こえた。
 気のせいだろうと思いながらも呼ばれたほうへふと顔を向けると、本当に快永さんが私のもとへ駆け寄ってきていた。
 神様が窮地に陥った私を助けてくれたのだろうか。彼が来てくれるなんて奇跡としか思えない。

「快永さん!」

 彼の顔を間近で目にした途端、胸の中が愛しさでいっぱいになって、気がついたときには広い胸板へ飛び込むように自分から抱きついていた。
 こんなこと、してはいけないと頭ではわかっているけれど止められなかった。
 快永さんが私の背中を右手で撫でたあとに力強く抱きしめてくれて、ホッとしたせいで瞳からポロリと涙がこぼれた。

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