イケメンカリスマ美容師の沼は思った以上に深そうです
「お前、彼女になにをした?」

 頭上から彼の声が聞こえてきたが、いつもより何倍も低くて怒りの感情が乗っているのがわかった。

「うわ、カリスマ美容師本人の登場かよ。ていうか、まだなにもしてねぇよ!」
「こんなに震えるほど怖がらせたくせに、ふてぶてしいな」

 私の身体が小刻みに震えていると気づいたから、快永さんは背中を労わるように撫でてくれたのだ。
 そんな彼のやさしさで包み込まれている今、この一瞬だけだとしても本当に幸せを感じる。

「この子は俺のだから。二度とちょっかい出すな」

 塚田くんがわざとらしく「チッ」っと舌打ちをした音が聞こえた。

「あー、めんどくせぇ。最悪。花咲なんか相手にするんじゃなかった」

 快永さんの腕の中でもぞもぞと動いて塚田くんを見ると、髪を掻き上げながら顔をしかめていた。
 私と一瞬目があったけれど、フンッと鼻を鳴らして謝罪もせずに足早に立ち去っていった。

「杷子ちゃん、大丈夫?」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」

 快永さんが私の肩に両手を置き、顔を覗き込んできた。
 この世で一番愛しい人に助けてもらったのだと思うと、安堵して余計に涙がこぼれ落ちる。

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