イケメンカリスマ美容師の沼は思った以上に深そうです
「うれしくて、明日死んでもいいくらい幸せだから」

 心からの言葉を紡ぎだした私の唇を、快永さんがすかさずふさいだ。
 ……まさか彼とキスをする日が訪れるとは。
 この先もそっと遠くから姿を眺めたり、髪を切ってもらいながら会話を交わすだけで十分だと思っていた。
 なのにそれ以上の関係を築けるなんて本当に奇跡だ。これは夢だろうか。

「ドキドキします」
「俺だってしてるよ。ほら」

 恍惚とした表情で微笑んだ彼が、私の手を取って自分の左胸の上に乗せる。手の平からドクンドクンと激しい鼓動が伝わってきた。
 シャツ越しだけれど彼の身体に触れていると意識したら急に恥ずかしくなって顔に熱が集まってくる。

「杷子の顔、真っ赤だ」
「からかわないでください」
「からかってないよ。家に持って帰りたいくらいかわいい。ずっと欲しくて欲しくてたまらなかったから」

 妖艶な色香をまとった彼の顔が近づいてきて、再び唇が重なった。
 時折食むようなしっとりとしたキスに脳までとろけそうになる。

「本気で家に連れて帰りたいけど、それをやったらさっきの男と変わらなくなるから嫌だな。またの機会に」

 路上キスで私をこんなに翻弄しておきながら、快永さんは唇を離して残念そうな笑みを浮かべた。
 すぐに手を出したくない、大事にしたい、という意味に都合よく捉えてもいいのかな。私は彼が望むなら……ノーとは言わないけれど。

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