御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「愛してる、瑠衣」

 肩口に顔をうずめられて、ピクリと肩が揺れる。
 けれど、少しも嫌じゃない。

「そ、その、どうして私を?」

 拘束から逃れるのはあきらめて疑問を口にすると、葵さんは体を起こして再び私と目を合わせた。

「そうだなあ」

 冷たい外見に加えて、愛想もない。感情が表情に出にくい上に、言葉にするのも苦手だ。
 非常階段では、頭を抱えてため息を吐くなんて情けない姿をさらしていたはず。
 だめだ。自分でも、良さがひとつも見つけられない。

「最初は、非常階段での様子が普段とあまりに違うから興味を持った。そうして何度か見かけるうちに、気になる存在になっていった」

 私が思っている以上に葵さんに目撃されていたようで、ものすごく気まずい。

「人一倍努力をして、なんでもひとりでこなすところは頼もしい。だがそれは、裏を返せば他人の頼り方を知らないだけだ。弱音の吐き方もわからない不器用な瑠衣を、いつしか俺が守ってやりたいと思うようになった」

 伝わったか?というように、身を屈ませて顔を覗き込んでくる。その近すぎる距離に、こくこくと首を振るしかできなくなった。

「なあ、瑠衣。笑顔も涙も、俺には素直に見せてくれるということは、自惚れてもいいんだろうか」

「そ、それは……」

「こうして捕まえていても、本気で逃げようとしない。これはもう、そういうことなんだろ?」

 言葉にしていなくても、私の見せる微かな反応で葵さんはすべてを見透かしてしまう。
〝これ〟とか〝そういうこと〟なんて明言を避けるのは、どうしても私に言わせたいらに違いない。
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