御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 さすがに本人は、事前に内示を受けていたはずだ。
 けれど、妻とはいえ同じ会社に勤める私には『近々、異動があるかもしれない』程度にしか明かされていない。

 発表が今日だと葵さんもわかっていただろうに、ここに来るまでそれすら仄めかしてくれなかったのは、きっと彼のいたずら心からに違いない。私を驚かせたかったのだろう。

 それからというもの、社内を移動すればチラチラと興味津々な視線を向けられ続けて、まったく落ち着かなかった。
 好意的なものから、あからさまな好奇心までさまざまだ。

 三浦さんからは、いつもに増して敵対心をあらわにされてしまった。
 以前は悟られないように私を睨みつけていたが、隠すつもりはなくなったらしい。今朝は挨拶すらされなかったと、後から気がついた。
 彼女と仲良くしたいとは思えない。でも同じ職場で働いているのだから、嫌な蟠りはできればなくしておきたい。

「放っておけばいいのよ。なにも悪いことなんてしていないんだから」

 ランチのときに長谷川さんに相談をすると、あっけらかんと返される。
 彼女はそれよりも、私が悩みを打ち明けてくれたと喜んでくれた。

「三浦さんも、心を入れ替えられたらいいんだけどね。ここだけの話、今は最後のチャンスを与えられたってところじゃないかしら。ほら、フォローの社員がしっかりついているでしょ?」

 彼女に頻繁に声をかけている社員を思い浮かべながら、うなずき返す。

「それでも態度の改善が見られなかったら、人事の面談が入るのかな。簡単に辞めさせるなんてできないだろうけど、あのまま変わらないのなら重要度の低い仕事しか任せられなくなるわね」

 物事が上手くいかない理由を、彼女は他人のせいにしがちだ。それはかつての自分を見ているようで、苦々しくなる。

 自分にも原因があると本人が気づかない限り、状況は変わらない。
 縁あってこの会社に勤めているのだから、上司や指導についた社員、それから苦言を呈してくれていた同僚の言葉に耳を傾けてがんばってほしい。
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