御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「……聞いていいか?」

 言いにくそうに言葉尻を濁す小早川さんに、目を瞬かせる。

「お答えするかは、内容次第です」

「気を悪くしたらすまない。成瀬の感情が乏しいのは、なにか原因があるのか?」

 こんなふうに面と向かってそれを尋ねられるのは、渚以来だ。
 正面をチラリと見れば、目が合った小早川さんが小さく微笑みかけてくる。

「一応、口は堅い方だ」

 お茶らけた調子で言われて、自身の中で張り詰めて糸がプツリと切れた。

「小早川さんって、冗談とか言う人なんですね」

「こう見えても営業職だからな。話術は必須だろ」

 彼がこれほど面白い人だとは知らなかった。

 今夜限り。そう思えば、打ち明けてしまってもいい気がする。
 酔っているせいでガードが緩くなっているのだろうと言い訳をしながら、ゆっくりと口を開いた。

「母が、厳しい人だったんです」

 父はよく言えば明るく、悪く言えば軽薄な人だった。
 中世的な私の名前は、父が好きなキャラクターからつけたと聞いている。母はよく考えるように苦言を呈したらしいが、それでも最終的に受け入れてしまうくらい父を愛していた。

「私が小学生の頃に、父が浮気をして家を出てしまったんです。しばらくして、両親は離婚しました」

 幸い母も仕事をしていたのと、お金に関してだけは父も責任を果たしてくれたおかげで、不自由のない生活を続けられた。

 けれど、優しかった母は離婚をきっかけに変わってしまった。
 ひとり娘の私に、異常なほど期待をするようになったのだ。それはもう、執着と言っていいほどに。
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