御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 父がいなくなってからというもの、母は私にいくつもの習い事をさせた。
 難関校を目指す学習塾に入れられて、テストは百点ととらなければ認めてくれない。ひとつでも間違えば、山のような課題を課された。

 あの頃は、自分ががんばれば傷ついている母もきっと笑顔を取り戻すはずだと、子ども心に信じていた。
 でも母は、私がいくら結果を出しても要求を増やすばかりで、笑いかけてはくれない。

 遊びに行くなど到底許してもらえず、テストの出来が悪いと食事を抜かれる日もあった。
 友人付き合いもままならなくて、周囲から人がいなくなっていく。それを訴えても、母は聞く耳を持たなかった。

 私が母になにかを言えば、返ってくるのは叱責ばかり。それが苦しくて、感情を隠すようになっていく。

 高校は、母が指定した進学校に合格できた。
 これでようやく解放してもらえると思ったのは甘かった。大学入試を見据えて、母はさらに私を追い込んでいく。その間、娘の希望など聞きもしなかった。

 家と学校と塾を行き来するだけの日々をたんたんと過ごし、ここでも友達と呼べる関係は誰とも築けなかった。 
 
 未成年の自分では、ここで見捨てられたら生きていくことすら難しい。だから、母に嫌われるわけにはいかない。
 そんな恐怖が常にあり、すっかり疲弊していた私は笑い方すらわからなくなっていた。

 あの頃の苦しみからは解放されたはずなのに、話しているうちによみがえってくる。
 そのどうしようもない衝動を、アルコールと共に飲み下した。
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