御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「なあ、成瀬」

 私が落ち着きを取り戻したところで、小早川さんが再び声を発した。

「成瀬は、見返したくないのか?」

「なにをですか」

「無責任な父親に、自分を追い詰めた母親。それから裏切った男に、相手の女。面倒ごとを押し付ける上司や、事情も知らずに攻めてくる同僚」

 彼が挙げていく人たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
 両親はともかく、そのほかは私が上手く関係づくりができなかった結果だ。抱いた不満を一方的に押し付けるのは、なにかが違う。

「たしかに理不尽で、悔しくもあります。ですが、自分にも至らないところはたくさんあるので」

「真面目だな」

 思わずムッとして視線を向けたら、小早川さんが苦笑した。

「言い方が悪かった。成瀬は、自分を変えたいとは思わないのか?」

 変えられるものなら、私だってそうしたい。

 三浦さんのようなかわいらしさが羨ましい。
 渚のひとつのことに熱くなれるところがカッコよくて、私もそうなりたい。
 助けてと素直に言えたら、どれほど楽だろうか。

 考えだしたら願望にきりがない。どれも私には無理だと、あきらめてきたものばかりだ。

「私には、できません」

「そうか」

 解放されたとほっとすると同時に、身勝手にも見捨てられたような気にもなる。

「つまり変わりたいが自分ひとりではできない、ということか」

「は?」

 こんなの、揚げ足取りだ。

 非常階段で出くわしてから、この人にはペースを乱されてばかりいる。感情をぐちゃぐちゃにされて、すっかり私らしくない。

「か、変わるなんて、私にはできません」

「ひとりでできないのなら、俺を頼ればいい」

「え?」

 からかいまじりの戯れかと思いきや、小早川さんが意外にも真剣な顔をするから、反論する勢いが削がれてしまう。
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