御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「ああ、そうか。それなら俺は、成瀬にべた惚れの男を演じる必要があるな。なにせ成瀬には、強引な俺に押し切られてスピード結婚に応じてもらうのだから」

 色気を帯びた流し目を送られて、ドキリと鼓動が跳ねる。

「それは……」

 べた惚れとは?
 たしかに話の辻褄は合いそうだが、不安を感じるのは気のせいだろうか。

「瑠衣」

 いきなり名前で呼ばれて、ハッと息をのむ。突然すぎて、思考がフリーズした。

「はは。その不慣れな反応はいいな。かわいいよ、瑠衣」

「か、かわ……」

 私がかわいいわけがない。いつだって、冷たくて話しかけづらいと言われてきたのだから。

 それよりも、べた惚れとは私に対する甘い接触なのかと気づいて鼓動が速くなる。

「ところで瑠衣は、俺をどう呼んでくれるんだ? まさか、結婚に応じた仲で〝小早川さん〟はないよな」

 涼しげに微笑まれて、不覚にも胸が高鳴る。思わず視線を逸らした。
 演技はもうはじまっているらしいが、不意打ちの言動は私の心臓に優しくない。

「……葵さん」

 なんとかそう呼んだものの、明らかにたどたどしい。

「とりあえず、合格かな」

 動揺を見せたくなくて、唇を固く引き結んだ。

「瑠衣には、これからもっと俺に慣れてもらわないとな。そのために、どんどん素を暴いていくから」

「目的が変わってきています」

 苦言を呈した私に、葵さんは心外だという顔をした。

「俺たちは近いうちに夫婦になるんだ。周囲に疑念を抱かせないよう、ふたりの仲を深めるのは最重要事項だ。なにも間違ってはいない」

 なんとなく腑に落ちない部分もあるのに、自信ありげに言いきられたら彼が正しい気にさせられる。
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