御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 社長室を後にして、そのまま一緒に食事へ行こうと誘われる。彼とはまだまだ詰めておくべき内容はたくさんあり、二つ返事で応じた。

 彼の運転で移動する。
 葵さんが連れて行ってくれたのは、少し畏まったレストランだった。

「ずいぶんと準備がいいんですね」

 オーダーを済ませてひと息ついたところで、彼の用意周到さを指摘する。

「せっかく瑠衣が結婚を了承してくれたんだから、当然だ。このチャンスを逃すわけにはいかないだろ?」

 これが敏腕部長と言われる彼の手腕かと、納得しそうになる。

「本当に、いいんですか?」

「いいとは?」

 私の真意を探るように、まっすぐに見つめられる。

「社長はかなり喜んでいらっしゃったようですが、騙しているようで……」

 婚姻届を提出すれば、社長ではなく義父になる。
 でも、仮初の関係で父と呼ぶのは憚られた。

「それなら、事実にしてしまえばいい」

「え?」

 突拍子もない発言に、思わず声をあげる。

「ははは。こんなふうに動揺する瑠衣を見られるのはいいな。俺の特権か」

「葵さん!」

 からかわれたと気づいて抗議する。

「この話は俺から持ち掛けたというのに、心配してくれるなんて瑠衣は優しいんだな。それは美徳だが、俺みたいな悪い男につけ入られるぞ」

「悪い男って」

 葵さんは意地悪だけれど、悪い男とは思っていない。
 なんだか話をはぐらかされたみたいだが、それよりも気になることがあった。

「ところで、週末に届を出すって言っていましたよね?」

「善は急げと言うだろ?」

 善ではないはずだと、心の中で反論を忘れない。
 でも、すでに身内に紹介された後だから、今さらごねても遅い。
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