星のような僕らは

足りない何か

それから、曲の制作開始から、二週間が過ぎた。
歌詞は一向に完成するどころか、全然、書き進める事が出来ていなかった。
「全然、ダメ!」
「何か、足りない。それは分かる」
いくつか、書いてみたものの、思っているような歌詞には、ならなかった。
「曲は?」
「俺の方は形には、なってる。だから、歌詞と合わせて調整するつもり」
進んでる!
「一回、聞かせてよ!」
「ダメだ。聞かせたら、曲に合わせようとするだろ」
「お願い!」
蒼也はため息をついた。
「しょうがないな」
やった!
「今、送る」
「ありがと!」
「だが、あの歌詞用じゃないからな」
「じゃあ、何のための曲?」
「梨歌のための曲」
私のための曲?
「お前は、これでも聞いてろ」
そして、通知が来た。
「聞いても良い?」
「ああ」
私は送られて来た通知を開き、再生ボタンを押した。
高音と中音のハーモニーで日陰から日向へと歩きだしたような感覚になった。
胸の奥があったかいな。
元気出る。
「蒼也から見た私なんだね」
私は自然と笑みが溢れた。
「ああ。俺が出来る事、全部込めた」
「嬉しい。ありがと」
「やっと、笑った」
「えっ」
「...梨歌は笑ってれば、良いから」
あれ?蒼也の声ってこんなに透き通ってたっけ。
「うん...」
何だろ、蒼也の声が頭の中から離れない。
私が謎の感覚に落ちてるのを誰も知らないと言うように電話の着信音が音楽室に響く。
「ごめん、電話だ」
そして、蒼也は五分くらい電話をして帰ってきたら、突然、言った。
「あのさ、来週、天体観測、行く?」
「天体観測?」
今、何で?
「俺の兄さんが星の研究所で働いてて、流星群とか月食とかがあると天体観測に呼んでくれるんだ」
「へえ!」
「この前、流星群、見ただろ?
また、別の流星群が流れるらしいんだ。
それで、研究所で一緒に観ないか?ってさっき電話が来た。連れて行きたい友達がいるんだけど、良いか?って聞いたら、良いって。一緒に見れたら、ヒントになるかも知れない」
流れ星、もう一度、見たい!
「行く!」
「それじゃ、来週の土曜日な」
「了解!」
「ずっと、話せなかった事がある」
「何?」
「...俺なりに考えてたんだ。あの歌の曲を。
でも、まだ、全然、イメージ出来てないんだ。
ごめん。一回、形にはなって、自信もあった。
でも、聞き直してたら、何か足りなくて、書き直す事にした」
そうだったんだ。
「蒼也。私も頑張るから、一緒に頑張ろ!
一緒にヒント見つけに行こう」
「ああ」
その後も試行錯誤は続いた。
「こんな歌詞にして見たんだけど、どう?」
「何か、違うな」
「やっぱり、足りないか」
「ああ。後で、曲も聞いてくれ」
そして、あっという間に一週間経って、約束の土曜日になった。
私は蒼也との待ち合わせ場所に向かっていた。
「梨歌、こっち」
声をかけられて後ろを見ると蒼也が居た。
「遅いから、迎えに来た」
「えっ?」
私は腕時計て時間を見た。
まだ、九時だ。
でも、秒針は一向に進まない。
もしかして、
「スマホ見てみ」
そう言われて、スマホの時計を見ると、待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
「嘘!」
「嘘じゃないから、迎えに来てるんだろ」
「ごめん」
「謝らなくていい。その様子だと、腕時計、壊れてたんだろ?」
「壊れてた」
蒼也は私の手を取って、走りだした。
「行こうぜ。星、楽しみだろ?」
「うん。楽しみ」
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