イケメン妻はお飾りの年下夫の愛に囚われる
「怒っているんじゃない。心配しているのだ。お父上が亡くなってから色々あるのは知っている」

 上官のコルビット大佐は、かつて父と同期だった。父は家を継ぐために早期に騎士団を辞めたが、次男の彼はそのまま騎士団に残って功績を上げて今の地位に就いていた。

 今は上官と言うより、旧友の娘として彼女を心配してくれているのがわかる。

「いえ、でも私事で公務に支障を来たすなど、私の不徳の致すところでございます」

 しかし、いくら小さい頃から知っている相手でも、今は部下と上司だ。期待に応えられずアニエスは口惜しげに言った。

「何とかなるのか?」

 そう尋ねられ、「はい」と言いたいところだが、アニエスは嘘は言いたくなかった。

「何とか…一番いいのは、私が結婚することなのですが…こればかりは自分一人が頑張ってもどうしようもありません」

 剣術の腕を磨くことなら、己が頑張れば何とかなる。でも結婚は一人ではできない。

「なるほど…うちの息子が独身だったなら、何とかしてやれたが」

 彼の息子は既に二人とも結婚していて、すでに子供もいる。

「お気遣いありがとうございます」

「条件は特にないのか?」

「容姿や出自は特に問いません。ただ、私が騎士を続けることと、家の管理をすることに文句を言わず、助けてくれる人であればいいのです」

「ふむ。難しいぞ。妻を外に働きに行かせることを好まない者が圧倒的に多い。しかも家の采配も口出すとなると、普通の男は妻に従うことを好まない」

「分かっています」

 だから苦労しているのだ。

「わかった。私も伝手を探してみよう」

「有りがたいお話ですが、これは私個人の問題ですから」

「実際仕事に支障を来たしている時点で、個人の問題では片付かないと思うがな」

 痛いところを突かれた。

「仰る通りです。面目次第もございません」

「親友の忘れ形見で、部下でもある君のためだ」

 アニエスも、自分の出した条件はかなり難しいと思っている。

 男性には男性のプライドというものがあって、女性の下に就くことを嫌う事が多い。

 でも、ベルフ家の正当な後継ぎは自分で、それが女であるというだけで夫に全て奪われるのは嫌だった。
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