このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 だからアルベルトをけしかけたのではないかと勘ぐってしまう。
「アルベルト様。マリアンヌをお願いしますね」
 イリヤは、アルベルトの後ろに控えていた乳母にマリアンヌを預ける。マリアンヌの世話をしたことのある乳母である。一時期、マリアンヌに手こずった彼女であるが、今は穏やかな笑みを浮かべている。
 マリアンヌがアルベルトたちと部屋を出て行くのを見送ってから、力が抜けたかのようにイリヤはすとんとソファに身を預けた。クライブはさも当たり前のように隣に座ってくる。あとは、神官長たちは空いている場所にと適当に座る。
「イリヤ嬢。このたびは、聖女役を引き受けてくださったことに感謝する」
 神官長が深く頭を下げると、魔法使いの三人も頭を下げた。
 召喚の儀に立ち会える魔法使いも、国家魔法使いの中では魔力が強く地位の高い者であると聞いている。
「はぁ……緊張しました。とにかく、なんとか誤魔化せたようで安心しました」
 そこへワゴンを手にした侍女がやってきた。
 彼女の動きを、そこにいる者たちが黙って見守る。
 イリヤが聖女代理であることを、召喚の儀に立ち会った者以外に知られてはならないのだ。
 侍女は一礼して、部屋を出て行った。
「はぁああああああ」
 イリヤからは変な声が漏れ出た。クライブはその様子を微笑みながら見ている。隣から感じる視線を、イリヤは無視する。
「イリヤ嬢。お茶でも飲んで、まずは落ち着きましょう」
 神官長の声に促されるようにして、カップを手にした。紅茶の香りによって、強張った身体が解きほぐされる。
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