このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「……お前。この求人票を見て、ここに来たのだな?」
「そうです。さっきからそう言っているのに、この方たちが全然信じてくれないのです」
「この求人票……なんて書いてある?」
 もしかして、この宰相閣下も字が読めないのだろうか。
「先ほども同じことをこちらの騎士様にも聞かれましたが。もしかして、みなさん。目が悪いのですか?『求む! 家庭教師。子どもの相手が得意な方。性別年齢国籍問わず。住み込み可。詳細は面接にて』ってこんなに大きく書いてあるじゃないですか!」
 ひくひくっと、黒髪男の唇が動いた。
「お前……名前は……イリヤ・マーベル? マーベル子爵の令嬢か?」
 紹介状の内容を確認したのだろう。
「それが、何か?」
「そうです、宰相閣下。この娘、あの悪名高いマーベル子爵令嬢なんですよ」
 柄悪騎士が黒髪男にすり寄っている。
「いや……なんでもない。だが、この娘を通してやれ。これから面接だ」
「やった!」
 と声が出そうになったところを、イリヤは慌てて口元を押さえた。
「オレは、クライブ・ファクト。おそらく、お前の雇い主になるだろう」
 彼は眼鏡を人差し指で押し上げると、そう名乗った。
 名前だけは聞いたことがある。若いながらも宰相を務めており、なによりもファクト公爵家の当主でもある。
「イリヤ・マーベルです。よろしくお願いします」
 イリヤは深く頭を下げた。そして頭を上げたところで、柄悪騎士に向かって、あっかんべーとしてやる。
 その姿は、見事クライブに見られていたようだ。森の中を思わせるようなアイビーグリーンの瞳が笑っていた。
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