このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 三拍子のリズムに合わせてステップを踏むと、嘆美の声がちらほらと上がり始める。
「クライブ様。みんな、クライブ様だとは思っていないのではないですか?」
 先ほどから、聖女様の相手の男性は誰だと、そういった声が聞こえてくるのだ。
「どうせ、あとで顔見知りには挨拶しにいかねばならないからな。そのときに、いやでもわかるだろう」
 唇の端を引きつらせるクライブに、イリヤは微笑んだ。
 曲が終わって二人がその場を去ると、次から次へと他の人たちが中央に集まってくる。
「イリヤ。とりあえず、面倒くさい奴らを紹介する。顔だけ覚えておけ。名前は覚える必要はない」
 イリヤも気が重いように、クライブもその気持ちは同じようであった。
「聖女様」
 クライブと共に、お目当ての場所へ向かおうとしたところを、呼び止められた。
「どうか、私とも一曲踊っていただけませんか?」
 三十歳前後の男だろう。聖女に取り入ろうという気持ちがまざまざと感じられた。
「聖女様は忙しい」
 クライブが冷たく言い放つ。
「先ほどから話題になっております。聖女様の隣にいる男性はいったい誰なのかと。あなたは聖女様に相応しい身分をお持ちなのでしょうか?」
「ほほぅ。ルーフス侯爵はご子息にどういった教育をしているのか?」
 男は驚いたように目を開ける。
「父を……ご存知でしたか?」
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