このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「そうだな。王城で毎日のように顔を合わせているが?」
「……クライブ様」
 イリヤがクライブの名を呼ぶと、男の顔からさっと血の気が引いた。
「クライブ……? ファクト公爵? 宰相閣下ですか?」
「そうだが、何か?」
「い、いえ。なんでもありません。まさか、聖女様のお相手が閣下だったとは思っておりませんでした。閣下と聖女様はどういった関係ですか?」
 相手がクライブであったと知っても、なかなか引かないその心意気だけは褒めてやりたい。
「オレとイリヤの関係? イリヤはオレの妻だが?」
 ――言った。この人、本当に言った。しかもこの場で。
 なぜかイリヤの心臓がドキドキとうるさい。このドキドキは何からくるドキドキなのか。
「妻? 閣下ご結婚されていたのですか? 聖女様と?」
 男の声が少しだけ大きくなった。周囲も何事かと聞き耳を立て始める。
「ああ。結婚してそろそろ半年経つな」
「では、聖女様と結婚したわけではなく?」
「結婚してから聖女だとわかっただけだ。イリヤ、他にも挨拶をせねばならない。行くぞ」
 イリヤは男に軽く頭を下げて、クライブと共にその場を去る。
 一人に話せば、ああいった話はあっという間に広まるだろう。それにクライブはこれから挨拶ついでにそれを口にするつもりでいるのだ。
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