このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「いいか、イリヤ。これから紹介する人物が面倒くさい奴らだ。顔を合わせるたびに、聖女召喚云々を言い、さっさと聖女をミルトの森へ送れと言っているような者たちだ」
「わかりました」
 クライブと並んで歩くだけなのに、好奇の目がイリヤにまとわりついた。
 状況を見て、声をかけようとする者もいるのだろう。
 だがクライブはそういった人物を敏感に感じ取ると、その者から彼女をかばおうとする。けれどもイリヤは、それについては何も言わなかった。
 ここははっきりいって敵陣のような場所である。
 聖女という好意的な視線の奥には、本物か偽物か見極めてやろうという思惑が漂っているのだ。
「リグナー公爵」
 クライブが声をかけると、でっぷりとした年配の男性が顔をしかめた。
「私の名を呼ぶとは? 貴殿は? いや、それよりも隣にいるのは聖女殿か?」
「リグナー公爵。私の顔も忘れたのですか? とうとう耄碌(もうろく)したと?」
 クライブの声に、リグナー公爵はじとっと睨みつける。
「まさか……その目の色……ファクトの若造か」
 失礼な言い草であるが、クライブも彼らのいないところではかなり失礼なことを言っていたので、おあいこだろう。
「イリヤ、リグナー公爵に挨拶を」
「リグナー公爵。はじめまして、イリヤ・ファクトです」
 ドレスの裾をつまみあげ、淑女の礼をする。
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