このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「サブル侯爵。妻が以前、お世話になった方だとお聞きしております」
「……つ、妻?! イリヤ、こちらの方はいったい……」
「夫のクライブです」
「く、クライブ……ファクト公爵……宰相、閣下!」
 サブル侯爵の混乱している様子が伝わってきた。
 それは目の前の眼鏡のかけていない男がクライブであった事実に混乱しているのか、それともイリヤがクライブと結婚していた事実に驚いているのか。もしくはその両方か。
「い、イリヤは結婚したのか。ファクト公爵と。そうか、そうか……はは、それはめでたい。おめでとう」
「ありがとうございます」
 イリヤはサブル侯爵に向かって微笑んでから、クライブを見上げた。クライブもまた、もイリヤを見下ろして穏やかな笑みを浮かべている。
 また、イリヤの胸はトクンと高鳴った。悔しいので、ぷいっとそっぽを向いてから、クライブの腕を取る。
「他にも挨拶をしなければなりませんので。つもる話もあるかとは思いますが、またの機会に。次は、私の屋敷にでも遊びにきてください」
 クライブがさらりと口にすると、サブル侯爵は口の端を引きつらせた。
 それからイリヤはクライブに連れられ、多くの人と挨拶を交わしたが、どれが誰というのはまったく頭に入ってこなかった。
 彼と触れ合っている腕が、とにかく熱かった。

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