このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 そしてそこを訪れるのが聖女と国王となれば、慣れている彼らだって慌ただしい。
「陛下、聖女様。よくいらっしゃいました。閣下も陛下のお守りで……」
 壮年の男性は、クライブに同情のまなざしを向けてきた。年相応の落ち着きを感じるものの、濃紺の頭髪には白いものがちらほらと交じって見える。
「あばぁ」
 マリアンヌが愛嬌を振りまいて手を挙げると、アレンの顔もゆるむ。
「お噂は聞いておりましたが。聖女様のお披露目の儀には顔も出せずに申し訳ありませんでした」
 いったいどのような噂を聞いているのか気になるところだが。
 もしかしたら、毒婦が聖女だったとか、そういった噂だろうか。
「い、いえ……お気になさらず」
 アレンがこの地を離れられないというのは、イリヤも聞いて知っている。
「では、すぐに部屋を案内します」
 人当たりのよい男性である。これが、人生における経験の違いなのかもしれない。
 イリヤにとって、騎士団の人間はいかつくて横柄な態度というのが植え付けられている。それもこれも、あの門番のせいだ。
 ただ、あそこで騒いだおかげでクライブと出会えたと考えれば、結果的にはよかったのかもしれない。
「聖女様とお嬢様は、こちらの部屋をお使いください」
 アレン自らが案内してくれた。
「ありがとうございます」
「閣下は、陛下と同じ部屋のほうがよろしいですよね?」
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