このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 渇いた笑いと共に誤魔化してみる。だが、イリヤの隣にいるのは、この国の宰相を務める男。年齢は二十四歳と若いが、前任が辞するときに、クライブを宰相にと任命したのだ。そのとき彼はまだ二十二歳。その若さで指名されるだけの頭脳と実績を持っている。となれば、イリヤの嘘などまるっとお見通しなのだろう。
 じろりと睨まれた。
 赤ん坊は泣き止む様子がない。そして赤ん坊が泣くたびに、室内にある調度品が浮いて、落ちて、浮いて、落ちてを繰り返している。
「とりあえず、この部屋をこれ以上破壊されないような魔法は使えるか?」
「ですから、魔法ってなんのことでしょう?」
「誤魔化せると思うなよ。オレたちは、お前が魔法を使えることを知っている」
「なんで?」
 あ、という表情を見せたイリヤは慌てて自身の口を押さえた。今、言ってはいけないような言葉を言ったような気がする。
「とにかく、これ以上の被害を出したくない。なんとかできないか? 魔法を使ってこの場をなんとかしてくれたら、お前は採用だ。面接代わりみたいなものだと思えばいい」
 イリヤとしてはなんとしてでもあの仕事に就きたい。そして面接代わりに魔法を使えと言われたら、使うしかないだろう。
「わかりました……。とりあえず、現状を教えてください。この部屋の状況を作り出しているのは、あそこのお二人と思ってよろしいでしょうか?」
 イリヤの言う二人とは、銀髪の男と彼が抱きかかえている赤ん坊である。
「厳密に言うならば、あの赤ん坊のみ。陛下は赤ん坊を必死に宥めている」
 今、クライブは「陛下」と言った。その言葉が意味するところを、イリヤはもちろんわかっているつもりだが、とりあえず今はこの現状をなんとかするのが先だろう。
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