このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「マリー? マリアンヌをそう呼んでいるのか?」
「あ、はい。名前が長いので、愛称で呼んでもいいのかな、と。家族ですから」
「家族、ね……」
 クライブも思うところがあるのか、それ以上は何も言わなかった。
「……あの、閣下。ドレスなど、準備していただきありがとうございます」
 まだ礼を口にしていなかった。
「イリヤはオレを他人行儀に呼ぶのだな。家族ではないのか?」
 突如としてそのようなことを言われたら、どう返したらいいかがわからない。
 マリアンヌはゲフッと言って、食事を終えたようだ。
「奥様、先にお嬢様をお部屋に連れて行きますね」
 できた侍女は、空気を読んだ。この場にイリヤとクライブをふたりっきりにさせるつもりだ。いや、少し離れた場所にチャールズは立っているが、彼は優秀な執事であるため、まるで壁のよう。
「ええと、旦那様?」
「それでは使用人とかわらないだろう? オレたちは家族なんだよな?」
 彼はいったい、イリヤに何を言わせたいのだろう。
「では、あなた?」
 ゴホッとクライブがむせた。やはりこの呼び方は、おかしいのだろうか。
「それも悪くはないが……。名前で呼んではくれないのか? 夫婦であれば名前で呼び合うのでは?」
 イリヤは助けを求めてチャールズを見やったが、彼は壁と同化しておりイリヤの視線には気づかないふりをしている。
< 49 / 216 >

この作品をシェア

pagetop