このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「それよりも。あまり食べていないのではないか? 昨日の夜も思ったのだが……」
「え? あ。まぁ……実はですね……」
 一か月ほど宿で過ごしていたが、お金を節約するために食事は最低限しかとっていなかった。そのせいか、少し食べるとお腹がいっぱいになってしまう。
「なるほど、身体がその生活に慣れたんだな。だが、ここにいるからにはこの生活に慣れてもらう必要がある。食べる量はもう少し増やせ。オレは、もう少し肉付きがよいほうが好みだ」
 イリヤは慌てて胸元を両手で覆った。
「何もそこだけの話ではない。全体的に、イリヤは細すぎるんだ。好みの食事があるなら教えてほしい」
 ぶっきらぼうな態度と見せかけて、時折見せる好意的な態度。これはクライブの計算によるものなのか、それとも天然か。だが、今までの態度をみると、そういった関係において計算できるような男には見えない。エーヴァルトのふざけた言葉を鵜呑みにするような男なのだ。
「わかりました」
 イリヤが返事をすると、また満足そうに微笑む。むしろ、天然の人たらしにちがいない。天然だから自覚はないのだろう。そして、女性が寄ってくるのが嫌いだから、毒を吐く。
 そこまで考えて、イリヤは手を止めた。
 ――もしかして、彼がこうやって微笑むのは、私にだけ?
 その考えを追い払うかのように、軽く頭を振って、残りのパンを口に放り込んだ。

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