このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 クライブが帰ってきた頃には、イリヤもぐったりとしていた。
「お帰りなさいませ……」
 マリアンヌを抱っこしたまま出迎えてはみたものの、本音をいえば、ふかふかの寝台に飛び込みたい。
「……イリヤ。顔色が悪いが? 具合でも悪いのか?」
「いえ……旦那様が心配なさるようなことではありません」
 その言葉に、クライブの顔は陰った。
「オレは妻を心配することも許してもらえないのか?」
 目を伏せて呟く様子に、イリヤの心がきゅるるんと音を立てる。
「そういうつもりではなくて……わざわざ私のために、旦那様が気を使う必要はないということです」
「だが、イリヤはオレの妻だろう? 夫は妻を気にかけるものだと聞いたが?」
 誰の入れ知恵か。
 もちろん、チャールズしかいない。隣でニコニコとしているチャールズに、チラリと視線を向ける。
 昨夜、あの半裸状態のクライブは、いったい何を吹き込まれたのか。気になるところでもある。
 それに、彼の言うことは間違いではないし、普通の夫婦であれば喜ぶべきところだろう。この人、本当に私のことを愛してくれているのね、と。
 しかし、イリヤとクライブの関係は普通の夫婦とは異なる。婚姻関係にあっても雇用関係みたいなもの。
「心配してくださってありがとうございます。ただ疲れただけです」
 事務的に答えてみると、ふたたびクライブの顔は曇るが、彼がなぜそのような表情をするのか、イリヤにはわからない。
「そうか……マリアンヌは? 暴走したりしなかったか?」
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