このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 イリヤは困り、クライブの顔を見上げた。クライブからもほとほと参っている様子が伝わってきた。彼は今までこんなエーヴァルトと一緒にいたのだ。それを想像しただけで、クライブに同情すら覚えてきた。そんな彼は首を横に振り、無言で「無駄だ」と言っている。つまり、エーヴァルトに何を言っても無駄である。
 イリヤはチャールズに目配せをすると、彼は黙って首を縦に振る。これは「準備は整っている」という意味だろう。
「陛下。私たちは、これから夕食をいただくところなのですが。よろしければ陛下もご一緒にいかがですか? お城の料理人には及ばないかもしれませんが、公爵家の料理人も腕がよいのですよ?」
 イリヤが言うと、クライブはぎょっと目を見開く。その際、眼鏡が少しずれたようで、すぐに人差し指で押し上げた。
「さすがイリヤ嬢。この堅物毒舌宰相よりも話がわかる。クライブには、ちょっともったいなかったかもしれないな」
 イリヤとクライブの関係がどのようなものであろうと興味がないと言っていたくせに、この手のひらの返しよう。
「では、陛下。食堂に案内いたします。クライブ様はお着替えを。チャールズ、お願いね」
 イリヤがにっこりと微笑むと、チャールズは一礼し、渋るクライブを部屋へと連れていった。
「なるほどなるほど。イリヤ嬢はすっかりと公爵夫人が板についている」
 そう言いながらもエーヴァルトはマリアンヌの頬をつんつんつんとつついている。つつかれた彼女は、ぶぶぶぶぶと涎を出しているのだが、やはりエーヴァルトは喜んでいた。
 ようはマリアンヌから何かしらの反応があることが嬉しいのだ。親馬鹿を通り越しているし、そもそもエーヴァルトはマリアンヌの親でもなんでもない。ただの赤の他人である。将来は、息子のアルベルトと結婚させようと企んでいるようだが、今はまだその段階でもない。
 エーヴァルトを食堂に案内し、飲み物を用意する。
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