このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「だけど、エーヴァルトは私とクライブにも仲良くしてもらいたかったみたいで」
 その話を聞くと、あの国王は今よりも子ども時代のほうがしっかりしているように思える。
「それで私もね、クライブと仲良くしようと思ったの。普通に女の子同士がやるようにね、遊べば仲良くなれるんじゃないかなって」
 ふっとトリシャの目尻が困ったように下がった。
「あの頃、女の子同士はね。着ているドレスを取り替えっこする遊びが流行っていたのよ」
 トリシャが言うあの頃は、イリヤの知っているあの頃とは違う。少なくとも、そういった遊びが流行ったという記憶がイリヤにはないのだ。これが五つの年の差によるものか。
「クライブはドレスなんか着てなかったんだけど。だからこそ余計に服の取り替えっこをしたくなってね」
 先ほどの困ったような笑みとは異なる、にやりとした何かを企むようにトリシャは口元をゆがめた。
「それをね、もちろんクライブが嫌がって。私が無理矢理ひん剥いたの」
 イリヤの頭の中にそのときの光景がぱっと浮かんだ。けして目撃したわけでもないのに、なぜか容易にそれが想像できたのだ。
「それでね、そのときにクライブが男の子だってわかったんだけど。せっかく服を脱いだのならって、私のドレスを無理矢理着せてみたの。そうしたらね、もう、エーヴァルトが……」
 くくくくと思い出し笑いをしたトリシャは、その先の言葉を続けることができないようだ。ひとしきり笑ったあと、ふぅと息を吐いて紅茶を一口飲む。
「とにかく。クライブは顔がいいのよ。女の私がうらやましいと思うくらいにね。それにドレスが似合う」
 その言葉で眼鏡を外したクライブの顔を思い浮かべる。顔がいいのは認める。
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