王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「お、お世話役ですか?!」
「そう。クルト王子もリセ嬢も、同じ十七歳だろう。もし引き受けて貰えたなら、クルト王子もとても心強いと思うのだが」
「グラナードも私も、もう卒業してしまっているし……リセさんにしか頼めないの」

 後光を放つグラナード王子とルーナは、有無を言わさぬ笑顔を湛えている。さすが王子とその婚約者。ただおっとりとしているだけでは無いらしい。

「俺からも頼む、リセ」

 クルト本人からも更に畳み掛けられた。
 しかしリセとしても、簡単に首を縦に振ることは出来ない。

「私などでは、力不足ではないでしょうか……」
「何を仰るの。クルト殿下といえばリセさんしかいないわ」
「クルト王子からの、たっての希望なんだよ」

 彼らは、十年前のお茶会をばっちりと覚えていた。クルトにべったりと付きまとい、一方的に世話をやくリセの姿を。ああ……当時の自分を椅子に座らせ、小一時間くらい説教したい。

「あれは……あの頃の私は、身の程知らずだったのです。クルト様に対してあのような御無礼を」
「俺は楽しかった」

 隣に座るクルトは、相変わらず面白半分な瞳でリセを見下ろす。そんな……本人からそのように言われてしまったら。

「ほら、ご本人も楽しかったと仰っているわ」
「決まりだな、クルト王子」
「リセ、よろしく頼む」

 クルトから、二度目の『よろしく頼む』をいただいてしまった。大国ディアマンテの王子からの『よろしく』を、もうこれ以上拒める貴族はいるだろうか……いや、いない。

「かしこまりました……至らぬ点もあると思いますが、よろしくお願いします。クルト様」

 リセがクルトに向き合い頭を下げると、彼は満足そうに微笑んだ。
 こうしてリセは、クルト留学中の世話役を引き受けたのだった。
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