眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
「嶺人さん、もしかして、今夜のお出かけには何か意味があるのでしょうか……?」
「意味がなければ美雨と出かけてはいけないか? 寂しいことだな」
「そうではなく、その……今夜は、デート、なのですか……?」

 あまりに自信がなくて語尾が無闇にかすれた。エンジン音に紛れて消えてしまいそうなささやかさだったのに、嶺人は過たず聞き取ったようだった。「その通りだ」と迷いのない応えが返ってくる。

「ちなみに、俺は今夜をかなり楽しみにしている。浮かれているといって差し支えがない」

 冗談めかした嶺人の言に、美雨は思わずふふっと笑った。

「嶺人さんでもそんなことがあるのですね」
「きっと知らないだろうが、美雨といるときはたいていそうだ」

 クーペが赤信号で止まる。ゆっくりとした減速だったにもかかわらず、美雨はつんのめりそうになった。

「ご、ご冗談を」
「冗談では済まない」

 じ、と嶺人がこちらを見つめてくる。鋭い視線は美雨をシートに釘付けにするようで、せっかく落ち着いた心臓がまた強く脈打ち始める。

(ど、どういうこと……?)
 なんだかずっと嶺人の様子がおかしい。さっきから与えられるのは、本来であれば美雨が受け取ってはいけないはずの言葉たちだ。
(……嶺人さんは優しい方だから、私が惨めに思わないように気を遣ってくださっている……?)
 困惑して返事一つよこせないでいるうちに信号が青に変わり、またクーペが走り出す。
 美雨は息をひそめて、助手席に身を沈めた。
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