眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
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 ほどなくして窓から見えた建物に、美雨は浮き足立って声をうわずらせた。

「ここ、あの人気の水族館ですよねっ?」

 都心の駅近く、夜遅くまで開館している有名な水族館だ。華やかな設備と充実した展示の両面から支持を集めている。開業して十数年経つというのに連休中は未だにチケットが取りづらいと評判だ。
 嶺人が水族館の駐車場にクーペを停めて、美雨を外へ連れ出した。春のぬるんだ空気が顔に当たる。どこからか沈丁花の甘い匂いが漂ってきた。
 当然のように美雨の左手を取る嶺人が振り向き、眦を和らげる。

「そうだ。食事に行くのでも良かったが、美雨はこういうところの方が好きかと思って」
「はいっ、好きです」

 今でこそ基本的に家に引きこもっているが、昔は外出して色々なものを見るのが好きだった。嶺人となら食事だって楽しいとは思うが、美雨は酒に弱いし混雑が苦手なので、自分のペースで過ごせる場所の方が性に合っている。

(それに――)

 しっかりと繋がれた手に目を落とす。
 嶺人が覚えているかはわからないけれど、この水族館はあの事故が起きなければ二人で訪れるはずだった場所。
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