眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
あれから美雨は杖なしには歩けなくなってしまって、もう二度とここに嶺人と来ることはないのだと思っていた。
嬉しいような苦しいような、今まで覚えたことのない感傷がひたひた押し寄せて、恋を鎖ざす覚悟を削っていく。
それを振り払うように美雨は務めて明るく訊ねた。
「よくチケットを取れましたね」
水族館の入り口へ向かう小道を歩いているところだが周囲にはひとけがない。人気と聞いたのにどういうことかと首をひねっていると、何でもないように嶺人が答えた。
「今夜は貸切だ」
「えっ」
ちょうど入り口に着いて、自動ドアから建物へ足を踏み入れる。
中はがらんとしていて、通路沿いにいくつも並ぶ水槽を淡い照明がほのかに照らすばかりだった。嶺人の足音と美雨の杖をつく音が、控えめなBGMに混じって館内に響く。
「えっ、えっ? 貸切?」
「今日は休館日だったんだが、夜なら貸切にできると言われたからな。美雨も人混みは好きではないだろう」
「それはそう、ですが……よくそんなことが可能でしたね……?」
おののく美雨に、嶺人が肩をすくめる。
「この辺りの不動産には岬地所も絡んでいる。さして難しくはない」
岬グループの影響力は甚大らしい。美雨は「なるほど……」とひとりごちて水槽に目をやった。
嬉しいような苦しいような、今まで覚えたことのない感傷がひたひた押し寄せて、恋を鎖ざす覚悟を削っていく。
それを振り払うように美雨は務めて明るく訊ねた。
「よくチケットを取れましたね」
水族館の入り口へ向かう小道を歩いているところだが周囲にはひとけがない。人気と聞いたのにどういうことかと首をひねっていると、何でもないように嶺人が答えた。
「今夜は貸切だ」
「えっ」
ちょうど入り口に着いて、自動ドアから建物へ足を踏み入れる。
中はがらんとしていて、通路沿いにいくつも並ぶ水槽を淡い照明がほのかに照らすばかりだった。嶺人の足音と美雨の杖をつく音が、控えめなBGMに混じって館内に響く。
「えっ、えっ? 貸切?」
「今日は休館日だったんだが、夜なら貸切にできると言われたからな。美雨も人混みは好きではないだろう」
「それはそう、ですが……よくそんなことが可能でしたね……?」
おののく美雨に、嶺人が肩をすくめる。
「この辺りの不動産には岬地所も絡んでいる。さして難しくはない」
岬グループの影響力は甚大らしい。美雨は「なるほど……」とひとりごちて水槽に目をやった。