らくがきと恋心
「欲しかった?」
「へっ?」
突然話しかけられて、頭上を見上げた。
髪色とは反対に吸い込まれそうな真っ黒な瞳に、えーっと、と思わず視線を逸らした。
「すげー見てたから」
もしかして、譲ってくれるのかな。
「…はい、欲しかったです」
私がもう一度チラッと視線を合わせてそう言うと、その生徒はフッと笑って言った。
「残念、やんないよ。俺も今日は焼きそばパンって決めてたし」
「な…」
それならわざわざ聞かなくてもいいのに!
性格わるっ!このパン泥棒!
私はふんっと顔を逸らして「すみませーん!」とおばちゃんに声をかけるけれど、気付いてもらえない。
「あの!こっちも…」
「ハイハイちょっと待ってねー」
おばちゃんは顔も向けずにそう言った。
購買が戦場なのは知っているけど。
私のお昼ご飯が無くなるのは死活問題だ。
もう一度呼ぼうと大きく息を吸ったとき、私が声を出す前に隣で「おねーさーん」と声を通らせたのはさっきの男子生徒だった。
すぐに振り向いたおばちゃん。
ちがう。おねーさん。
男子生徒は私に向けて言った。
「何がほしいの?」
真っ黒な瞳に見下ろされて「ハッシュ3つ…」と素直に答えてしまう。
「おねーさんハッシュ3つ」
ハイハーイとご機嫌にハッシュを持ってきたおねーさんに代金を支払ったのは隣の彼だ。