らくがきと恋心
「焼きそばパンのお詫び」
「えっ」
私にハッシュを手渡すと、その男子生徒はそのまま人だかりから抜け出して友人らしきグループに合流していった。
「どうしたのすみれ、何か絡まれてた?」
環ちゃんが待つ階段下に戻ると、環ちゃんが心配そうに私を見た。
「ん、なんか…最後の焼きそばパン横取りされたんだけど、お詫びにハッシュ買ってくれた人がいて」
「なにそれ、画伯さんじゃないの?」
環ちゃんは少し興奮気味に言った。
そりゃ私も一瞬もしかしてと思ったけど…イメージが違うというか。
絵心…あるタイプ?
あの人、あんな可愛いパグの絵、描くかな?
「画伯さんは、真面目で、優しくて、癒し系のはずだもん…あの人は、ヤンチャそうだったよ」
「すみれってば。見た目で人を判断しちゃだめよ」
環ちゃんにそう言われて、ギクリとした。
確かに、見た目であれこれ決めつけるのは良くない。
「うう、そうだよね。…ちょっと探り入れてみようかな」
ドキドキと早まる鼓動。
画伯さんの正体に近付こうとしているからなのか。
さっきの出来事があったからなのか。
少しだけ熱くなった私の頬を、持っていたジュースで冷やしながら教室へ戻った。