離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
私は慌てて鼻と目元をぬぐった。

大泣きした汚い顔を、こんなイケメンに見られてしまった。

恥ずかしいやら惨めやらで、顔が熱くなる。

『無理じゃありません』

優秀でもなんでもない学生でも、私が来るのを患者さんが楽しみにしてくれている。

たったそれだけのことで、勇気がぐんぐん湧いてくる。

意地悪な指導者の言葉なんて、指導以外は聞き流してしまえ。

私は患者さんのために、明日からも実習に来る。

『先生、ありがとうございました。失礼します』

私は座っていた椅子から立ち上がり、ドアノブに手をかけた。

『うちに就職考えておいてくれよ。待ってるから』

見下ろした先生は、彫刻のように整った顔で微かに微笑む。

社交辞令だとしても、うれしかった。

私はうなずき、深く礼をしてその場を去った。

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