冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて
「いえ、身だしなみが整っていなかった私が悪いので」
「前はもっとちゃんとしていたイメージがあるが……」
「昨晩母親と喧嘩して、夜はネットカフェに泊まってそのまま出勤してしまったんです」
「……危ないな。母親の方は大丈夫なのか?」
大丈夫と言われたら全然大丈夫じゃない。だって家に帰れないんだから。
今晩泊まるところもないし、できることならお店に泊めてほしいくらいだ。お店の鍵は社員の私も持ち歩いているし、泊まろうと思えば事務所に泊まれた。
けれど、橘さんがいる手前『帰るところがないんでお店に泊まる』なんて言えない。
「はい……今日は帰る予定ですので、ご心配おかけしました」
これ以上心配もかけられないため、咄嗟に嘘を吐く。
橘さんは「それなら良いが、何かあったら言えよ」と気にかけてくれた。
「だが、服代は話が別だ」
私の手に札束を数枚握らせる橘さん。
その額、五万円。こんな大金受け取れない。けれど、当分泊まるところがない私にとって五万円はめちゃくちゃ大きい。
一カ月、ギリギリ使えるお金と同等の金額。
「……服、こんなにしていませんが。上下合わせて五千円もしていないです」
悩んだ挙げ句、正直に話す。それに川本くんに立て替えてもらっているため、尚更嘘をついてはいけない。