冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


「それに、お恥ずかしい話、手持ちが少なくて川本くんに立て替えてもらっているんです。なので、このお金は川本くんに渡してください」


 握らせられたお札を橘さんへ返す。けれど、橘さんは受け取ろうとしない。


「川本にも後で服代は渡す。手持ちが少ないんなら、尚更持ってろ。返さなくていいから」

「そういうわけにはいきません」

「じゃあ、そのお札は捨てるなり、募金に回すなりしといて。はい、お疲れさん」


 橘さんは「ほら、さっさと帰って仲直りしろ」と私の背中を押す。そのまま連れ出されるようにお店から出されてしまった。


 捨てるわけないし、明日生きるのも必死な状態なのに募金に回せない。受け取ったお金は有り難く財布に仕舞う。


 橘さんは何時までお店に残るんだろう。

 いつまで日本にいるのだろう。

 明日にはニューヨークに帰ってしまったりしないだろうか。


 3年ぶりに会った橘さんは昔のように物腰柔らかで、接しやすい態度とは異なっていたけれど、でも、にこりともせずとも、昔のように心配はしてくれる。


 年齢イコール彼氏なしだけれど、私は橘さんが好きだった。


 本社のニューヨークに異動になることが決まっていたため、気持ちを伝えることはしなかった。


 押し込めていた想いがまた溢れてしまわないように、深く深呼吸をする。


< 16 / 66 >

この作品をシェア

pagetop