プライベートレッスン
テーブルには空になったビール缶が2本並んでいる。
そして俺は続けて3本目のビールをあける。
「そんなに美味しいんですか?」
彼女は空のビール缶を人差し指でツンツンと突きながら言った。
「コーラの方が10倍はうまいよ」
「じゃあ、どうして飲むんですか?」
彼女の問いに少し考えてから言う。
「嫌な事を忘れるためさ、酔えば痛みが少しだけ和らぐからね」
「痛みって心の痛みですか?」
俺は無言で頷いた。
「でも誰だって痛みは持ってますよ、私だって」
そこまで言って口を閉ざした。
「撮影は順調に進んでいるの?」
この言葉に彼女の眉が少し動いた。
どうやら順調には行っていないらしいな。
「セリフが上手く言えなくて監督に怒られたとか?」
彼女は無言で首を横に振った。
「撮影がうまく行きすぎなんです。監督もほとんど何も言ってくれないし、私がもう一度撮らせてくださいって言っても時間がないとか言って次のカットに入るし、なんか現場は緊張感のカケラもないって感じなんです」
赤坂エリは空のビール缶をベコッっと握りつぶした。
「なんか悔しいですね、無力な自分が」
赤坂エリは唇を噛みしめた。

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