筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「ようこそいらっしゃいました。私共は未来の辺境伯夫人としてローズ様をお迎えできて幸福でございます」
  
 使用人達は何故か大歓迎ムード歓迎してくれて。あれよと言う間に風呂に突っ込まれ、赤色で背中まで伸ばしたストレートヘアを艶々になるまで梳かされ、最終ひらひらで薄い夜着を着せられる。極め付けに「ブレイズ様は夜には戻りますので」と言い残し、私は自室とされし部屋に放置された。

「ちょっと待って。流石に急展開すぎでしょ」

 初対面すらまだなのに、これってアリ? 初対面から合体しちゃうわけ?

 しかし相手は辺境伯。平民の私が逆らえる相手ではないし、結婚まで住まわせてやるのだから体で払えと言われても仕方がないのかもしれない。避けれないのなら、それでも前に進むしかないのだ。
 
(かなりの戦果を上げたらしいから、ヒョロっとした魔術師かなぁ)
 
 どうせ体で払うのなら、初めての相手は筋肉質な人が良かった。そんな事を考えながら、バロック調の波模様が美しい高級そうなソファーで寛ぐ。魔術師あるあるで、幼い頃より魔法を酷使してきた私は小柄の為、ソファーにも余裕で寝転がれる。
 
(こんな事なら、戦場で好みの筋肉の男性に言い寄っておくべきだったかも)
 
 ……そしていつの間にか眠ってしまって、宵の口。
 目を覚ました私の視界いっぱいに広がるのは――がっちりとした大胸筋。しかもシャツの上からでも分かるその筋肉のせいで、シャツの生地が引き攣っている。
 ソファー横の床に両膝をついて私の様子を伺っていた大柄な男性は「良かった、生きていた」と小さくこぼした。
 まさかこの人が……ブレイズ様!?
 
 口から小さな悲鳴がつい漏れてしまったが。――もう一度説明する。私は筋肉フェチである。
 この悲鳴は悲しみでも恐れでもない。喜びだッ!
 私はガバッとソファーから体を起こした。

「抱いてください!!」
 
(寝入ってしまって申し訳ございません)

 婚約者が好みの筋肉であった喜びから、つい心の声と発言が逆転してしまう私だった。
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